Web 制作の未来:CEO が語る AI と Wix のビジョン
- Yukari Majima
- 6 時間前
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アビシャイ・アブラハミ|Wix 共同創設者兼最高経営責任者

AI(人工知能)が、Web サイトの構築と運営のあり方を大きく変えています。本記事では、オンラインプレゼンスにおいて進化する AI の役割、Wix の製品戦略に加え、将来 AI 主導となってもなぜ Web サイトが不可欠なものであり続けるのかについて、Wix の共同創設者であるアビシャイ・アブラハミ(Avishai Abrahami)による見解をお伝えします。
1. ChatGPT のような AI プラットフォームは Web サイトの代替となるのか、あるいはアクセス方法が変わるだけなのか?
これには2つのシナリオがあると考えています。1つは、すべてが ChatGPT の中で完結し、それがインターネットとなり、すべての情報を把握するようになることです。もう1つのシナリオは、ユーザーが ChatGPT や同様のプラットフォームにアクセスして質問をすると、それが他の Web サイトのサーバーから情報を取得して表示するというものです。
最初の選択肢は、ChatGPT がインターネットそのものを内包するというものです。つまり、OpenAI のサーバー上にありとあらゆる情報を保持しなければなりません。テキスト情報、在庫情報、取り引きに関する情報のすべてです。たとえば、インターネット上のすべての EC サイトの在庫状況、商品がいつ売れたか、残りの在庫は何かを把握する必要があります。ジムの場合は、スケジュール情報、クラスの空き状況、支払い済みかどうか、キャンセルポリシーなどを把握する必要があり、これをあらゆるものについて行わなければなりません。世界のあらゆる知識、あらゆる種類のデータ、金融データ、商業データ、法律に関するデータなどのすべてです。
これを構築するには、無限の量のレコードを、無限の構造で保持できる巨大なデータベースが必要になります。これは、おそらく現存する最も高度な Oracle データベースのバージョンよりも10億倍以上は複雑なものとなるでしょう。
個人的に、Sam Altman 氏の注目かつ優先事項となっているのは、構築不可能なデータベースや e コマーススタックを開発することではなく、AI 自体を進化させ続けることだと想像しています。
2番目の選択肢は、OpenAI と他のすべての LLM(大規模言語モデル)ベンダーが、各ビジネスのサーバー(Web サイト)と通信することで、各ビジネスが自身のデータと取引ルールを維持できるようにするというものです。
ですから、赤いドレスを購入したい場合、LLM は Web サイトエージェントと通信し、在庫があるかを問い合わせ、取引を行うために通信を続けます。
私はこの 2 番目の選択肢を強く信じていて、MCP(Model Context Protocol)の標準はすでにその方向への一歩を踏み出しています。そこでは、サーバーがエージェントと通信してリアルタイムの情報を提供し、アクションを実行しているのです。
Wix、Shopify、Squarespace のようなプラットフォームは、これらの橋渡しをつくる必要がありますが、Wix はすでに着手しています。MCP のような技術により、AI エージェントは Wix のインフラストラクチャに直接接続し、リアルタイムコンテンツにアクセスできるのです。
2. 将来のユーザーインターフェースへの考え、すべてプロンプトベースになるのか?
そうは思いません。映画が本よりも人気があるのには理由があります。視覚的な結果が重要だからです。私たちは、すばらしくインタラクティブなビジュアルを作成できる未来へと突入しています。毎日のように登場する新しい画像・動画生成ツールを見てみてください。ブランドは、製品やサービスを提示するためにもっと良い方法を手に入れることになります。ビジュアルエージェントやアバターに向けた最初の一歩は、すでに見えています。
私は、LLM エージェントが Web サイトエージェントを会話に「招待」し、両者が協力してユーザーにとってのベストな視覚体験を計画するような未来が訪れると信じています。そのためにはもちろん、高度なコンテンツ生成へのニーズが将来的に高まっていくでしょう。
つまり、インターフェースは進化していますが、ユーザーはよりパーソナライズされた体験を通じ、依然として Web サイト(またはそのエージェント)にアクセスすることになります。
これには非常にワクワクしていますし、素晴らしい画像や動画、音声コンテンツを作成できる未来はそう遠くないと考えています。
3. AI が Web サイト作成をどのように形成すると考えているか?
Wix が2016年にリリースした ADI(Artificial Design Intelligence:人工デザイン知能)は、AI ホームページ作成ツールの先駆けとなりました。これにってユーザーがより多くのことを、より速く、より良いビジネス成果とともに実現できるようになり、顧客満足度とコンバージョン率は大幅に向上しました。AI は、デザインのような複雑なタスクを簡素化し、複雑なツールを習得することなく、より高度なオンラインプレゼンスの構築を可能にするのです。
これから起こることがとても楽しみです。今後5年から10年間で、静的かつクリックして読むだけのインターフェースから、コンテンツを動的に話したり提示したりするライブエージェントへと大きな転換が起こるでしょう。ブランドは没入感のあるビジュアル体験を重視しているため、テキストによるプロンプトだけでは不十分になります。
Web サイトは今後ますます複雑になり、マルチメディアや AI エージェントによって高度にパーソナライズされたシナリオが実現されるようになります。これからの未来はとてもワクワクするもので、Wix はユーザーがそうした動的な体験を定義し、提供できるよう全力でサポートしていきます。
4. AI 検索が主流となる未来で成功するために、Wix は SEO と技術をどう進化させているのか?
弊社では、Wix サイトを AI 検索時代に備えるべく、GEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)を開発しました。AI がサイトコンテンツに簡単にアクセスできるよう、サーバーサイドレンダリングを提供しています。
また、AI がユーザーのコンテンツやサイト、ブランド名を理解し、回答の中で表示できるよう、デフォルトで構造化データマークアップを組み込んでいます。さらに、AI によるトラフィックやエンゲージメントを分析できるアナリティクス機能も提供しています。llms.txt をはじめとする新しい標準に対応するだけでなく、OpenAI のようなプラットフォームと提携して、生成 AI 検索で商品フィードが表示されるような取り組みもしています。
まもなく、AI 搭載の Bing 検索結果にユーザーのサイトが表示されるよう支援する Connect to Bing 機能をリリースする予定です。こうした取り組みにより、コンテンツの検索や発見の方法が AI で変化する時代でも、Wix ユーザーは成功を収められるようになります。
5. AI が Web サイトを構築できる時代に、Wix はどのように競争優位性を維持できるのか?
LLM が基本的な Web サイトを生成できるのは事実ですが、そうしたサイトは非常にシンプルなものにとどまっています。バックエンドのインフラやホスティング、決済、予約、フルフィルメントといった機能は備えていません。OpenAI がそのレベルで競争しようとするなら、AI の開発をやめて、完全なビジネスシステムを構築し始める必要があります。私には、それが彼らの戦略だとは到底思えません。
彼らにとっては、「Wix さん、このユーザーがあなたの製品を見ました。どうすれば一番効果的に提示できるか教えてくれませんか?」と言うだけの方が、はるかに拡張性があります。
だからこそ、Wix が構築してきたような Web サイトの裏側にあるインフラは、今後5年でますます重要になっていきます。特に、AI が単に質問に答えるだけでなく、実際に行動を起こす「エージェント的なシステム」の世界へと進んでいく中で、その傾向は顕著になるでしょう。その世界が高度になればなるほど、すべてをゼロから構築することは難しくなります。こうした機能をすでに備え、常に進化させている Wix のようなプラットフォームが必要になるのです。それこそが私たちの強みです。
6. AI に対する Wix の全体的な戦略は?
戦略は明確で、自分自身で何かを作りたいと考えている個人や企業、団体、そして制作会社を支援することです。AI によって、これまで以上に多くのことができるようになりました。弊社の役割は、画像編集や動画生成、高度なウェブサイトやエージェントの構築などを行うためのツールを彼らに提供することです。
Wix は常に、ユーザーが魅力的なコンテンツを作成できるツールを提供できるよう注力してきました。そして AI の登場によって、さらに多くの選択肢が加わることになります。以前はグラフィックデザイナーが必要だったものも、今では自分自身で高品質なビジュアルを瞬時に生成できるようになったのです。
私たちは、中小企業のみなさまが直面する悩みを解決するためのツールを開発しています。いくつかはまだ開発中ですが、すでに基盤となる MCP を構築済みです。これは、あらゆる最新の Web サイトに必要となるもので、AI エージェントが Web の重要なパーツとなる未来に向けて備えるものです。
これこそが、私たちの使命なのです。AI を活用して、ユーザーがこれまで以上に多くのことを、より速く、より高品質に実現できるようにしていきます。
このビジョンを加速するため、Wix が Base44 を買収したことをお知らせできることを大変嬉しく思っています。同社は、AI によるコード生成と複数エージェントの統合運用のパイオニアで、急成長中の AI スタートアップです。

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